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確率

概要

現実世界に起こる自然科学や社会科学的現象には不確実さを持っている場合が少なくない。
このような事象を数学的に記述する上で有効な手段が確率であり
前述のような事象の予測に有効な手段である統計的推測は確率を土台にしている。
本記事では確率に関する基本的な内容について解説する。

試行と事象

まず、確率に入る前に、試行と事象、集合論の基礎的な内容を解説する。

試行

不確からしさを伴う行為の総称。(例:1回サイコロを投げる など)

事象

試行で起こりうる結果の集合

全事象(標本空間): Ω\Omega

試行で起こりうるすべての結果。
事象とはすなわち全事象の部分集合である。

例:1〜6までの目を1つずつ持つサイコロを一度だけ振る試行について
事象 {1},{2},{2,4,5}....\{1\}, \{2\}, \{2,4,5\}....
全事象 Ω={1,2,3,4,5,6}\Omega = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}

次に2つ以上の事象について、発生の仕方によって
以下のような事象が定義でできる。
なお、説明の便宜上2つの事象を考える。

積事象(and:かつ)

2つの事象AとBが「ともに」起こる事象
AB={xxAかつxB}A \cap B = \set{ x | x \in A かつ x \in B }

和事象(or:または)

2つの事象AとBのうち「少なくとも一方が」起こる事象
AB={xxAまたはxB}A \cup B = \set{ x | x \in A または x \in B }

このトピックの最後に、集合演算について少し触れる。
なお、全事象Ω\Omegaの部分集合としてA, Bという2つ事象を考える。

補集合

集合Aに属さない集合
AC=Ω/AA^{C} = \Omega / A

差集合

集合Aに属するが集合Bには属さない元の集合
A\B=ABCA \backslash B = A \cap B^{C}

対称差

集合Aか集合Bいずれか一方に属する元の集合
AΔB=(A\B)(B\A) A \Delta B = (A \backslash B) \cup (B \backslash A)

空集合(\emptyset)

所属する元がない集合、要素を持たない集合

ここまでの内容を使って、様々な関係や性質を導き出す。

排反

AB= A \cap B = \emptyset のとき、AとBは排反である。
AB=A\B=AA \cap B = \emptyset \rArr A \backslash B = A
AB=AΔB=ABA \cap B = \emptyset \rArr A \Delta B = A \cup B


結合法則

ABC=(AB)C=A(BC)A \cup B \cup C = \left( A \cup B \right) \cup C = A \cup \left( B \cup C \right)
ABC=(AB)C=A(BC)A \cap B \cap C = \left( A \cap B \right) \cap C = A \cap \left( B \cap C \right)


分配法則

A(BC)=(AB)(AC)A \cap \left( B \cup C \right)= \left( A \cap B \right) \cup \left( A \cap C \right)
A(BC)=(AB)(AC)A \cup \left( B \cap C \right)= \left( A \cup B \right) \cap \left( A \cup C \right)


反転

(AB)C=ACBC\left( A \cup B \right)^{C} = A^{C} \cap B^{C}
(AB)C=ACBC\left( A \cap B \right)^{C} = A^{C} \cup B^{C}

確率

確率とは

確からしさを数学的に記述したもの。
もう少し具体的に言うと、事象を区間[0,1][0, 1]の実数に写像する関数である
例:1回サイコロを投げたとき、偶数が出る事象をAとすると P(A)=36=12P(A) = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}
また、何もおこらない確率はP()=0P(\emptyset)=0、全事象のうちどれかが起こる確率はP(Ω)=1P(\Omega)=1

確率を定義する事象の集合

Ω\Omegaの部分集合からなる集合を集合族といい、
確率は以下の3つの性質を有する可測集合族B\Betaの上で定義される
(M1) B,ΩB\emptyset \in \Beta , \Omega \in \Beta
(M2) ABACBA \in \Beta \rArr A^{C} \in \Beta
(M3) AkB,k=1,2,...,k=1AkBA_{k} \in \Beta, k = 1,2,..., \rArr \bigcup_{k=1}^{\infty} A_{k} \in \Beta

可測集合族B\Betaの元を可測集合といい、可測集合Aを実数に写像する関数P()P(\cdot)のうち
以下の3つの性質を満たすものを確率という。
(P1) すべてのABA \in \Betaに対してP(A)0P(A) \ge 0
(P2) P(Ω)=1P(\Omega) = 1
(P3) AkB,k=1,2,..,A_{k} \in \Beta, k=1,2,.., が互いに排反であるとき、
  すなわち、AiAj=,ijA_{i} \cap A_{j} = \emptyset , i \not = jの場合、P(k=1Ak)=k=1P(Ak)P(\bigcup_{k=1}^{\infty} A_{k}) = \sum_{k=1}^{\infty}P(A_{k})

命題

AB,BBA \in \Beta, B \in \Betaとする。

  1. P(AC)=1P(A)P(A^{C}) = 1 - P(A)
  2. ABP(A)P(B)A \subset B \rArr P(A) \le P(B)
  3. P(AB)min{P(A),P(B)}P(A \cap B) \le min \{P(A), P(B)\}
  4. P(AB)=P(A)+P(B)P(AB)P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B)


それぞれの命題の証明は以下の通り

命題1

AACAとA^{C}は互いに排反であるから、
AAC=Ω,AAC=A \cup A^{C} = \Omega , A \cap A^{C} = \emptyset
ここで、(P3)より
P(A)+P(AC)=P(Ω)P(A) + P(A^{C}) = P(\Omega)
よって、(P2)より
P(A)+P(AC)=1P(AC)=1P(A)P(A) + P(A^{C}) = 1 \rArr P(A^{C}) = 1 - P(A)

命題2

ABA \subset Bより、B=A(ACB),A(ACB)=B = A \cup (A^{C} \cap B) , A \cap (A^{C} \cap B) = \emptyset
A(ACB)=よりAACBA \cap (A^{C} \cap B) = \emptyset より Aと A^{C} \cap Bは互いに排反なので、(P3)より
P(B)=P(A)+P(ACB)P(B)P(A)=P(ACB)P(B) = P(A) + P(A^{C} \cap B) \rArr P(B) - P(A) = P(A^{C} \cap B)
(P2)より
P(B)P(A)0P(A)P(B)P(B) - P(A) \ge 0 \rArr P(A) \le P(B)

命題3

(AB)A,(AB)B (A \cap B) \subset A , (A \cap B) \subset Bより、命題2を用いて
P(AB)P(A),P(AB)P(B) P(A \cap B) \le P(A), P(A \cap B) \le P(B) 
P(A)P(B)以下P(A)P(B)のどちらか小さい方以下 P(A)とP(B)以下 \rArr P(A)とP(B)のどちらか小さい方以下なので
P(AB)min{P(A),P(B)}P(A \cap B) \le min \{P(A), P(B)\}

命題4

A=(AB)(ABC),B=(BA)(BAC)A = (A \cap B) \cup (A \cap B^{C}) , B = (B \cap A ) \cup (B \cap A^{C})より
P(A)+P(B)=P(AB)+{P(ABC)+P(BA)+P(BAC)}P(A) + P(B) = P(A \cap B) + \{ P(A \cap B^{C}) + P(B \cap A) + P(B \cap A^{C}) \}
=P(AB)+P(AB) = P(A \cap B) + P(A \cup B)
よって
P(AB)=P(A)+P(B)P(AB)P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B)